2005年1月1日号(新春対談)

コミュニケーション通じ元気な社会へ

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家庭・職場・地域社会・労働組合など、私たちの生活は人と人とのつながりで成り立っている。ライフスタイルが多様化する時代の流れの中で、私たちはどのように人間関係を築き、どのような社会をめざしていけばよいのか。異文化コミュニケーションを専門に活躍されているジェフ・バーグランドさんを迎え、労働組合やまちづくり、教育などについて、木村委員長と意見を交わしていただいた。

人間は歴史の流れの中に生きている

快適性追求のまちづくりでいいのか

谷口書記長(司会) 京都はどういう町だと感じられていますか。

ジェフ 来る前に本を読み、歴史のある日本人の文化の都だと知りました。実際に京都に着いたら、鴨川が南北に流れ、道が東西南北に通り、自然や寺も多くあり、とても美しい町だと思いました。京都の歴史の話などを聞くうちに愛着が芽生えてきましたね。着物が高いという最初のイメージも、できる工程を知ってからは高くないと思うようになりました。35年も住んでいると最初のイメージとはずいぶん変わってきます。当初はまだ市電が走っていましたから。市電が25円、バスが30円でした。

木村 私も1949年生まれですから、その時代のことはよくわかります。

ジェフ 同じ丑(うし)ですね。当時、同志社大学留学といっても学生紛争で封鎖されていて一度も大学の中に入っていないんです。催涙ガスで機動隊が来たり、市電がひっくり返って燃えているんですよ。八百屋さん、米屋さんが商品を出して「お客さん、どうですか」というコミュニケーションをやっている素朴な京都でした。今は人間関係が冷たくなって寂しいです。

谷口 なぜ日本で勉強することになったのですか。

ジェフ 大学の夏休み、生まれてはじめて出会った東洋人が日本人で、その人が面白かったから日本に興味を持って。宗教学が専門で比較宗教から異文化コミュニケーションに入りました。

木村 一神教のキリスト教やイスラム教では、仏教徒はつかみ所がないような気がしますが。

ジェフ キリスト教はユダヤ教から出ており、ユダヤ教はたくさんの神の中で一人の神と契約を結ぶ珍しい宗教。仏教はヒンドゥ教から出ていて、お釈迦様が苦しみを繰り返し瞑想によって悟る。日本に来て、妙心寺、大徳寺、永平寺など、あちこち座禅を体験しました。

木村 ある宗派では南無阿弥陀仏と唱えることで救われると言います。

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ジェフ ものの哀れ、ものにも魂があるという考えが日本文化の一つの大きな柱だと思います。昨年の鳥インフルエンザで、山田知事をはじめ京都府の職員が、処分する何万羽の鶏を供養しました。その姿を見て世界の報道員は驚いたのです。木や岩にも締め縄をして生き物として接している。インドや中国から入ってきた寺も、東南アジアでは常に華やかな色に塗り直しますが、日本人は古くなっていくものにも命があると考えて地味な色のままにする。35年も日本で生活するようになったのは、これに心打たれたからです。

木村 信じる、信じないではなく生活の一部になっています。引っ越しする時は城南宮に行って方角の神様にお参りするとか。しかし京都も近代化されてそれも少なくなってきています。

ジェフ 京都は人間関係がややこしいんですね。わかりやすい形にしたいというのが現代の動きです。例としてお葬式。昔はお寺さんに頼みましたが、人間関係でお金をとったりするお寺さんを嫌がり、料金表のある総合葬祭場がはやる。しかし生活の中で残さないと古いものは残せません。骨董品に触るとそれまでに触った人から伝わるものがある。古いものが僕に伝えてくれる心の落ち着きは、外から来て感じました。今住んでいる家は江戸後期に建てられたもので傷だらけです。

木村 その傷が今まで生活してきた人の歴史を語ってくれるのですね。

ジェフ 私たち人間は歴史の流れの中に生きています。アメリカ人は「ご先祖さん」というものにつながりを感じていません。京都の一番の魅力は、歴史の人たちがつくってきた道の延長線に生きていることを毎日感じることです。生活の合理化のために何百年も経った木を犠牲にするのは傲慢です。まちづくりは今の快適性ばかりを追求すべきではないと思います。

木村 まちづくりや都市計画にかかわっている組合員も多く、労働組合もまちづくりについて研究し政策提言しています。ドイツのローデンブルグは、第二次世界大戦の爆撃で壊された後、中世の街並みをそのまま再現しました。京都はマンションに変わっているのに。

ジェフ 僕の持論ですが、人間はコミュニケーションをとり表現する動物ですから、どこかで自己表現をしないといけません。日本、特に京都は人間関係の中で自己表現がストレートにできない場面が多いので、自分の建てる家で自己主張しているのかもしれません。ヨーロッパは人間関係の中で自己表現しているから公の場で規制が厳しくても受け入れています。

木村 日本は協調性が美学みたいなところがありますから。

要求が多様化する労働組合

さまざまな意見聴き運動を模索

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谷口 京都で教育に携われてどんな印象ですか。

ジェフ 同志社高校で始めて自分のクラスを担当した時、ホームルームで最初に言ったのは「教室は今年何色にする?」。生徒たちは最初は驚きましたが、自分たちのクラスはほかと違う色にしようという声が出ました。

木村 学校は許可しましたか。

ジェフ 教員会議で「次の日曜日、教室を塗ります」と言いました。日本語をしゃべっているんですが、外国語を聞いているような反応なんです。「なに言うてるんや。一つの教室が色が違うって許されるものではない」と。

木村 私もびっくりします。皆が同じという教育を受けてきている世代ですから。

ジェフ 教育は生きていくための道具のはずです。大事な事を決めるためにどこで情報を仕入れ、自分の意見をどうやって固め、表現するか、他人の意見を聞いて最終的な結論に立つのか、それを教えるのが教育現場です。大事なのは自分たちが自分たちの環境を考えること。それを拡大して校内、地域、国のことも考えていくことです。

木村 労働組合でも参考になるような一つの考え方ですね。

ジェフ 人間は皆、酸素を吸って空気がおいしかったら元気が出る。空気が悪かったら憂鬱になる。でも空気をきれいにするための議論になると、いろんな意見が出てきます。その多様な意見を受け入れることが大切です。労働組合の現状を把握していない私がとんでもないことを言ったとしても、乏しい情報の中でこういう意見もあるんだと。

木村 昔は労働組合は答えを導き出す公式があったのですが、今は枠がなくなってきて、いろんな方から意見を聴きながら運動を模索している状態です。

ジェフ 労働組合の役目は労働者の人権を守ることですね。誕生した頃は朝から晩まで働いても低賃金、労働者は使い捨てで人権がなかった。私が日本に来た頃は、賃上げ、労働条件の向上にがんばっていました。

谷口 学生運動をしていた主力メンバーが運動を引っ張っていったという背景もありますね。

木村 労働組合では平等主義が当たり前という考え方で運動をやってきました。今は要求も多様化し、政策研究や社会貢献に力を入れるべきとの主張も出てきて、労働組合という一つのくくりの中で答えをまとめるのは難しい時代になっています。

ジェフ 21世紀の課題は環境問題が第一、その次は仕事を保障することだと思います。人間は貢献したいという気持ちがあり、仕事を持つことが自己表現する最高の場なんです。たとえば、山が荒れて鹿が農作物を荒らす村に都会の人が休暇を利用して山の手入れをするという貢献の方法もあります。

谷口 京丹後市ができましたが、人口が伸びない、産業がないという問題があります。

ジェフ 住民が減ることと、実際に村が抱えている介護や環境、地場産業の問題は別にして考えてもいいのでは。介護研修モデル地域で学生が交代で合宿するというように、発想を広げたらいいのでは。労働に対して充実感、精神的・肉体的な健康を求める時代がやってくると思います。

木村 人が興味と充実感を持って行き来することができれば地域は活性化していくでしょうね。

ジェフ 交野市の地元の小さな酒蔵が会員制酒を考えました。会員が会費を払って田植え、草抜き、カカシ作り、稲刈り、仕込み、絞りを体験し、最後に自分の酒をもらうのです。こういう発想の生まれるような組合活動の可能性はいくらでもあると思うんですよ。

木村 一つのことを共同でやるというのは少なくなりましたね。発想を豊かにしてこれからの組合活動を転換していきたいと思います。

谷口 環境問題についてご意見を。

ジェフ うちは冷暖房がきかない家ですから、年中、外の温度と変わらない。若い人に「夏暑くて冬寒いのは当たり前や」と言ってます。欧米の自然支配型と違って日本は本来、自然共存型です。だんだん欧米型になってきてますが、京都の古くからある生活は共存型で環境にやさしいのです。

谷口 川もコンクリートで固めれば整備されるといわれていましたが、最近は植物による浄化作用が見直されていますね。

木村 河川整備をしたために蛍がいなくなって。昔は鴨川にも蛍がいたそうです。

ジェフ 蛍が育つには幼虫が育つまで草を刈らないことが必要ですが、川が臭くなり蚊が出るので住民から苦情が出る。鴨川が蛍でいっぱいになったら全国から人が来て京都の観光が潤います。一つの目的のために皆が納得して少し我慢することも必要ですね。

木村 街路樹も住民からの苦情で、葉が落ちる前に枝ごと切ってしまったり、ケヤキ並木が姿を消したり。環境や景観は住民全体で守らなければならないですね。

発想広げ女性参画を進めよう

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谷口 私たちは男女平等の社会づくりを重点課題にすえていますが、男女のあり方についてどう思われますか。

ジェフ 産業革命後は女性も外で働くようになりましたが、賃金や待遇面で不平等がある。共働きなのに女性に家事労働の負担がかかるという不満も出てくる。今は男女ともに誇りを持って人間として決定権を持ち、自主的に仕事をするように変わりつつあります。異文化コミュニケーションで言うと、文化は元気だから変化していくのです。

木村 自治労は地域・職場・組合での男女平等をめざす運動に取り組んでいるところです。

ジェフ 男性は一人ひとりで考えて答えを出し、女性はグループで互いに意見を尊重しながら話し合うことが多い。労働組合は女性のコミュニケーション技術や発想をもっととり入れるといいと思います。

木村 机をたたいて「賃金を上げろ」という時代ではなく、皆で話し合い、コミュニケーションを通して社会をどうしていくかを考えることが必要な時代です。今の労働組合には女性の参画が必要です。

ジェフ コミュニケーションは力関係が生じる四角いテーブルよりも、丸いテーブルが適しています。

谷口 イラク戦争で、ブッシュはコミュニケーションをとれない政策だと本に書かれていましたが。

ジェフ テロと戦うには相手の文化を理解しないといけません。異文化コミュニケーションでは摩擦はやむをえないが、理解しようとすることが大切です。日本は相手の話を聞く文化ですから、相手を尊重する姿勢を持っています。アメリカは国連で作られた世界共通の交通標識を使っていません。環境問題の京都議定書も、世界裁判所も、地雷廃止条約も批准していない。世界の国々が共同体で地球号に乗っているのに、アメリカは独自の道を歩んでいる。世界に「その道に来い」と言うのは傲慢すぎます。日本はアメリカの姿勢を正すような条件をつけて自衛隊の派遣延長をしなければ意味がありません。

木村 交通標識の話でイラク問題がわかったような気がします。

谷口 今年の抱負を。 ジェフ 「1年先に、またお正月を迎えることができるように」。あたりまえのことが来年もできるのが幸せだと思います。

木村 再建15周年。気持ちを新たに組合員に信頼される運動を展開したいと思います。

谷口 長時間ありがとうございました。

 

ジェフ・バーグランド 氏  1949年、アメリカ合衆国南ダコタ州生まれ。1969年、同志社大学留学後、同志社高校に就職。大手前女子学園教授を経て、現在、帝塚山学院大学人間文化学部教授。異文化コミュニケーション専門。京都市在住。

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